Rakugolover’s blog

落語について色々語ります

一般人には分からない駅格差に注目した面白鉄道落語

38.東急駅長会議(夢月亭清麿)


東京は主な移動手段が電車のせいか、都民はある程度駅名に馴染んでいる。が、駅に優劣があると思っている人はそれほどいないだろう。

この噺では、東急の駅長たちが月一回集まって会議するという設定になっており、急行停車駅の駅長が優越感をひけらかしたり、急行通過駅の駅長たちが反発してイヤミをや愚痴を言い出し、会議が紛糾してしまう。両者の不満解消のため仕方なく10月9日、東急の日だけ急行停止駅と通過駅を入れ替えるという荒療治を行うが…という展開で、聴いているとこんな格差が内部ではあるのか!と、思わせるような、ちょっと大袈裟だが舞台裏ドキュメンタリーを見てる面白さがある。もちろん、実際に祐天寺駅長が田園調布駅長に嫉妬しているとかは絶対ないが、あったとしてもしょうがないかな、と思わせる構成の巧みさだ。

寄席でかかった時は、是非都内路線図を見ながら味わっていただきたい。

オススメ度 ★★★★

聞いてて面白い大阪弁を落語にして面白さ倍増

37.大・大阪辞典(桂文枝)


大阪弁は多分日本で一番有名な方言だと思うが、おばちゃん2人が大阪弁で話しているのを聞いててもまんま落語になるなぁと思わせる力がある。この大阪弁を正面からとらえて創作落語にしたのがこの噺。

転勤で大阪に一緒に行ってほしいと旦那に頼まれた東京育ちの奥さんが、仕方なく辞典を買って大阪弁を学び始めるが返って混乱してしまう。大阪出身の旦那には普通に思える会話も奥さんには日本語に聞こえない。とうとう付録についてる大阪弁問題集で50点とれたら二人で転勤先に行くことに決めるが、妙な問題ばかりで…というのがストーリー。『次の大阪弁を日本語に直せ』という設問に、大阪弁も日本語や!と怒る旦那、何でいちいち大阪の人は他人のアクセントを直すの?と不審がる奥さん。大阪弁の面白さばかりでなく、自分たちでは意識していない大阪人のヘンな振舞いも描写されてて、気楽に笑える楽しい噺だ。

オススメ度 ★★★★★


DVD あります

文枝寄席 ~桂文枝 創作落語セレクション~ [DVD] https://www.amazon.co.jp/dp/B0771B95LD/ref=cm_sw_r_cp_api_glt_i_5A1GNAWJAPA5DHX51WCT

笑えるレストランイメチェン失敗新作落語

36.マキシム・ド・のん兵衛(三遊亭白鳥)


古典落語の''真似して失敗”様式(普段の袴などが例)で作られた新作・創作落語は割と多いが、この噺はメインを年寄り夫婦にしたところが賢い。

ストーリーは、流行らない居酒屋をしている老夫婦が、もうやめて老人ホームにでも入ろうかと相談してる。と、心配した孫娘がお婆さんの方を銀座のマキシムに連れて行って一流レストランのサービスを体験させる。感化されたお婆さんはお爺さんと一緒に店のサービスをフレンチ風に変え、店名もマキシム・ド・のん兵衛にしてしまうが…というもの。年寄り夫婦と常連のやり取りが、とぼけているのか、それとも本当にボケてしまっているのか分からない感じで面白い。オチはイマイチだが、全体的に楽しく笑える噺になっている。

オススメ度 ★★★★


CDあります

三遊亭白鳥1 https://www.amazon.co.jp/dp/B001HK0EKI/ref=cm_sw_r_cp_api_glt_i_YTV1WSZ4Y05FB4HHDHD9

予想裏切る展開の連続が爆笑を呼ぶ怪作

35.諜報員メアリー(柳家喬太郎)


通常、落語の観客はどういう展開になるか予想しながら聴いている。マクラや出てくる登場人物の会話なんかで、滑稽話なのか人情話か、仕事場の話か家庭内の話か等々を判断しているわけだ。逆に言うと、こういう予想がしにくい噺をされると、客はついていくのに精一杯で笑うのが難しくなる。が、この落語は軽々とそのハードルを越えて、展開がクルクルと変わってもその都度笑える見事な構成になっている。

ストーリーは、居酒屋で酒を過ごして店を追い出され、仕方なく始発を待つ学生2人の会話から始まる。駅への途中、謎の金魚売りならぬロブスター売りが倒れているところに出くわし、慌てて助けているところに突然謎の女が現れ諜報員メアリーと名乗り、日本経済をムチャクチャにする計画を自らバラし、偶然通りかかったソープ嬢を人質にして他に漏らしたら容赦しないと脅す…書いていて思ったが、これがもしテレビドラマなら何場面切り替えすることになるんだろうか。こういう噺ができるところが落語が持っているパワーの凄さで、噺家に何役も演じ分ける技量と会話でシチュエーションをイメージさせる力量さえあれば、客を飽きさせることなく最後まで惹きつけられる。

何噺に区分すべきか困る怪作だが、面白さは間違いなしだ。

オススメ度 ★★★★★


CDあります

喬太郎落語秘宝館3 https://www.amazon.co.jp/dp/B001HK0EL2/ref=cm_sw_r_cp_api_glc_i_H7534SXZF900Z9SSDEN3

 

 

 

 

大阪のおばあちゃんをよーく観察してできたオモロい落語

34.老婆の休日(桂文珍)


割とシビアな内容でも何故か関西弁で語られると抵抗なく受け入れられる、というのをよく分かって作られた、ある意味あざとい落語だ。噺はおばあちゃん同士の会話で進むが、回想や愚痴がテンポよく並べられ、その都度笑わされる構成になってる。病院での若いドクターに舌見せてと言われたのを勘違いして恥ずかしがる様などは爆笑もの。

でもこれを標準語で演じたら、多分シリアス気味になって全然受けないと思われる。例えば、ご飯を食べたのを忘れてしまうので、夏休みのラジオ体操のように食事の後でハンコを押すよう息子の嫁さんに強要されたくだりなどは、東京の噺家がやったら虐待を受けてるかのようになるかもしれない。つくづく関西弁は落語向きの言葉だと感心する。

オススメ度 ★★★★★


CDあります

桂文珍(5)「老婆の休日」/「ヘイ!マスター」-「朝日名人会」ライヴシリーズ7 https://www.amazon.co.jp/dp/B00005HY79/ref=cm_sw_r_cp_api_glc_i_E0SSMVR8R5K0PBDP5DGY

 

 

 

夫婦の日常会話がそのまま落語になる面白さ

33.はんどたおる(立川志の輔)


夫婦の会話は自分たちが交わしている分はそうでもないが、他人のを聞くと大概意外性があって面白い。ストーリーは、シュークリームを買ってきた奥さんに旦那が何故?と問うところから始まるが、奥さん側では筋が通っている説明をしても、ちっとも理解できない旦那の反応が何度聴いても笑える。お互いの買い物の仕方にケチを付け合っていると、新聞屋が勧誘に来て更に混乱…という噺だ。

ハンドタオルをもらうためにピッタリ3千円の買い物をする奥さんが理解できない旦那の心情も、旅行に行ったつもりになって自分の釣り竿を買ってしまう旦那に憤慨する奥さんの気持ちも両方分かるから更に笑える。オチもきれいにまとまっていて、どんな人でも楽しめる噺だ。

オススメ度 ★★★★★


CDあります

志の輔らくごのごらく(1)「はんどたおる」「死神」 https://www.amazon.co.jp/dp/B00006K0JD/ref=cm_sw_r_cp_api_glc_i_CY2E7V520ZZ3VHDBEE81

嫁姑のカギを巡る家庭内バトル落語

32.あいかぎの変(露の紫)

 

2(5)ちゃんねるにも発言小町にも溢れている嫁姑のバトルだが、実は古典落語でほとんど扱われてない。この噺では合鍵を巡って嫁からの文句と姑の応酬、二人に挟まれた旦那の苦悶がコミカルに描かれていて、こういう現代的かつ日常的な題材を扱えるのが新作・創作落語のいいところだ。

ストーリーは、旦那が嫁さんにことわらずに合鍵を自分の母親に渡してしまい、それを知った嫁さんがムチャクチャに旦那を責めているところに姑がアポ無しで訪ねてきて…というものだが、嫁さんの姑のココがイヤ!と並べ立てるセリフに笑わずにはいられない。勝手に冷蔵庫開けられて中を見られる嫌さを訴えても、旦那はそれほどのことと思っていないという温度差のある会話も可笑しい。オチは若干シュールだが嫁姑バトル落語として楽しめる好作だ。

オススメ度 ★★★★


今こちらで見れます(6/10まで)

eo光寄席

#20 露の紫『あいかぎの変』

https://eonet.jp/eohikari_ch/program/yosestayhome/episode_01428.html